もくたび vol.011
2026/3/6

「若手が“木材の現場”を見るということ」
 高橋幸司(森未来)
 島田潤(島田潤建築デザイン事務所・元竹中工務店設計部)
 七田恵理子(大和ハウス工業)

── ティンバライズあきる野林業・木材ツアーを振り返って
「若手には、林業を見る経験も、木材市場を見る経験も圧倒的に少ない。だったら、自分たちが見に行こう。」
この企画は、そんな思いから始まりました。
2025年11月8日、ティンバライズLABOと株式会社森未来の共同開催した「あきる野林業・木材ツアー」。今回は、その一日を、個人的な視点も交えながら振り返ってみたいと思います。

知っているつもり、分かっているつもり

設計や建築に関わる若手の多くは、「木を使うことが大切」「地産地消が重要」といった言葉を、頭では理解しています。
ティンバライズLABOでは、木材をどう設計に落とし込むか、木造をどう成立させるかといったことを諸先輩方から教えていただきます。
ただ一方で、その木がどこで育ち、誰が伐り、製材されるのか。
理事や講師の方々が木材の現場を当たり前のように語る中、そこまでを実感として知っている人は、実は多くはないのでしょうか。
知識と実感のあいだにある、この距離。その距離を一度、縮めてみよう。
そんな思いが、このツアーの出発点でした。

なぜ「東京・多摩」だったのか

ティンバライズLABO参加者の多くは東京近郊に暮らしています。そして東京には、多摩という、都市に最も近い林業地があります。
東京都は多摩産材の活用を後押ししているということもあり、実際の設計現場で使うことをイメージしやすいのではないか。だからこそ、東京で開催する意味がありました。
「遠い産地の話」ではなく、「自分が明日、会社に戻ってから使うかもしれない木の話」にするために。


あきる野林業・木材ツアーの概要

今回のツアーは、木材が「山」から「製品」になり、実際の「建物」までの流れを一気通貫で学ぶ内容です。地域の方々の多大なるご協力により、山、市場、製材所、建築を1日で巡る、濃密な行程が実現しました。

山に入る|田中林業で感じた現実

最初に訪れたのは、あきる野市で約500haの森林を管理する田中林業。
遊学の森を歩きながら、まず突きつけられたのは、林業の現実でした。
丸太を売るだけでは、林業は成り立たない。観光ツアーや薪の販売などの様々な収入源を持つことで経営が成立し、林業を続けていくことができる。
木材が育つ背景には林業の営みがあること、そしてそれが工業製品のような無機質なものではなく、生命力に満ちた有機的な素材であることを現地で肌に感じられたことは、私にとって大きな学びとなりました。

市場を見る|丸太は“山の一部”にすぎない

次は多摩木材センターを見学。
ここは各地で伐採された丸太が集まる中間集積地です。月に2回「原木市」という販売会が開催され、丸太が流通していきます。訪れた日はあいにく市は開催されていませんでしたが、積み上げられた多くの原木がありました。

原木の価格はHPで公開され、実際に取引されている値段がわかります。丸太は太ければ太いほど高く売れるわけではない、という事実に驚きました。

実際には、建築現場で使いやすいサイズの需要が最も高く、高値で取引されています。
林業現場を見た後だったので、「長く太ければ評価される」というわけではない市場のシビアな評価基準がとても新鮮でした。
そして、市場に並ぶ丸太は、山全体から見ればほんの一部であることがよく分かります。
立木から丸太になるまでの歩留まり。市場に集まる量の限界。建築で必要とされる材積とのズレ。木造建築は、「設計すれば木が集まる」ものではない。
この当たり前の事実を、参加者それぞれが受け取っていたように感じます。


製材所に立つ|丸太を最大限に活かす

丸太の見学を終え、いよいよ「木」が柱や板といった、私たちの見慣れた姿へと形を変える工程にやってきました。
お邪魔したのは、多摩産材を扱う沖倉製材所さんです。

製材所は、丸太を建材へと加工し、建材としての品質を決定づける極めて重要な役割を担っています。沖倉製材所さんは、長年培われた確かな技術と経験を背景に、極めて質の高い製材を行っており、多方面から高く評価されています。
普段、完成された建材ばかりを目にしていると、ついこの中間の工程を忘れがちになります。今回は特別に、稼働中の乾燥庫の中まで見せていただき、普段は目にすることのない「乾燥中」の木材の様子も拝見することができました。


建築に触れる|多摩産材をふんだんに使用したフレア五日市

最後に訪れたフレア五日市は、2025年3月に竣工した木造平屋建ての建築です。多摩産材を多く使用し、大屋根にはレシプロカル構造が採用されています。

今回は、設計を担当されたアルセッド建築研究所の小口さんのご厚意により、竣工までの貴重なお話を伺うことができました。木材調達のこだわりから設計のポイントに至るまで、専門的な知見を交えて多角的にご解説いただきました。
印象的だったのは、地域材調達の難しさ、地元工務店との関係づくりについて、率直な話を伺えたことです。
建築は、設計図だけでは完成しない。山、市場、製材所、人というこのすべてが噛み合って、ようやく完成するものだと、改めて感じさせられました。


ツアーを振り返って

ツアー終了後、参加者の皆さんから、現地へ足を運び、川上から川下までの流れを一度に俯瞰することの意義を肌で感じたといった、などの感想をいただきました。
今回のツアーは、スピンオフ企画ではありましたが、木材を使う立場にある私たちが、まず知るべきことを学ぶ貴重な一日になりました。
山を知り、サプライチェーンを知り、その上で、経済性も含めて木材を選ぶ。それが、これからの木材利用には欠かせない視点だと思います。
また、こうした「現場に触れる機会」を、継続的につくっていきたいと感じています。