江北小路
2023年

木密地域からコミュニティを維持しつつ移転を促すため、都有地を活用した移転者向けの魅力ある共同住宅を整備する東京都の事業プロポーザルで採択されたプロジェクトだ。周辺は都営住宅が多く、緑豊かな公園、特別養護老人ホームやグループホーム、保育室が広がるエリアだ。1階にはテナントスペース、2,3 階には1ルームから3LDK までの多世代向け16住戸を計画し、そのうち2階の5戸を足立区内の木密地域等からの移転先対象住戸としている。
本計画では、脱炭素社会実現のための『木造普及』、災害に負けないまちづくりのための『市街地の不燃化』、良質なコミュニティー醸成のための『魅力ある地域拠点の整備』という異なる角度からの課題に対して魅力ある答えを導く手段として、RCやS造ではなく、木あらわしの準耐火木造としてデザインすることを選んだ。木材を中心に据えた企画・デザインは、様々なストーリーにつなぐことができ、多様な課題に解を与えることができるからだ。
スタジオ•クハラ•ヤギとしては、矢吹町の災害公営住宅、糸魚川市の復興住宅に次ぐ、第3弾の木造3階建て共同住宅として、地方を舞台とした前2作を都市型に変化させることにした。
建築としては、小さな敷地に総3階建のコンパクトなボリュームとし、都市部では1階をテナントとすることも多いため、スパンを飛ばせて壁量が少ない、2020年に三菱地所ホームと開発した、厚板集成材の壁とスラブ・鉄骨逆梁によるFMT構法を採用、上階は在来構法とし、スラブにはCLTを採用した。厚板のラミナはカラマツ、外壁は東京多摩産のスギとした。構法も素材も複数を適材適所で組み合わせることで、都市的なニーズに応えることができ、見応えのある建築になった。
共同住宅としては、都市型の特徴として鉄の玄関扉に象徴される防犯性とプライバシーが重視されてきたが、少子高齢化やコロナ後の在宅ワークの広がり、地域コミュニティーの必要性の高まり等の昨今の社会状況の変化に適した形式も必要となってきている。本計画では、上階の共用廊下に回遊性を持たせ、植栽の緑に溢れる中庭(小路)を囲む形状にし、中庭を、内部空間のように感じる、佇みたくなり、自然と会話が生まれるような立体的交流テラスへと変化させ、また、前2作でコンセプトとした、交流と互いの見守りを促すリビングアクセス型プランと透明ガラスの玄関扉をこの都市型でも採用し、コミュニティー性の高い共同住宅タイプを提示している。

八木 敦司(やぎ あつし)

建築データ

事業主:江北小路
用途:テナントスペース、共同住宅
所在地:東京都足立区江北
建築面積:449.31m2
延床面積:1142.54m2
階数:地上3階
最高高さ:9.846m
構造:木造 一部 鉄骨造(60分準耐火構造)
竣工:2023年9月

設計監理 
建築:株式会社スタジオ・クハラ・ヤギ + team Timberize
構造:株式会社KAP
機械設備:環境エンジニアリング
電気設備:環境エンジニアリング
外構・植栽:株式会社マインドスケープ

施工
建築:三菱地所ホーム

受賞:第27回木材活用コンクール最優秀賞|国土交通大臣賞