まちなかに、人々に目に見える形で、ビルと呼べる規模の木の建築が普通に建っていることは、誰しもに分かりやすいメッセージとして、現代の建築と都市景観の可能性を伝えている。
木材利用活性化のためにも、大消費地である都市での高層建築、そして民間の事業者による木造をもっと増やしたい。そんな思いを、施主と施工者との強力なタッグで実現した、国分寺駅そばの商店街に建つ国内初の7階建木質ハイブリッドビルである。施工も設計もしやすい適正なコストを実現した「普及型ハイブリッドモデル」だ。
木質ハイブリッド集成材のこれまでの採用例では、2時間耐火との境界部分に課題があり、解決策を見出しておらず、オール鉄骨造とした例はなかった。また、複雑な集成材製作過程によりコストも増大していたため、高層化、一般化への道が閉ざされていた。本件では、耐火検証試験を行って、オール鉄骨造を実現するとともに、木質ハイブリッド集成材と一般耐火被覆を同一階で混在できるようにした。鉄骨接合部にはノンブラケット工法を採用し、集成材工場での製作を簡易化、運搬を効率化し、コストダウンに繋げた。3つの技術改良と工夫により、上層4層ハイブリッド造は、何階建てでもすぐに実現できるモデルとなった。日本のどこででも、誰でも木造ビルが建てやすくなるはずである。新しい技術を開発していくのでなく、開発済みの技術を改良し市場が使い易いモデル=スタンダードを目指したのだ。
デザイン面でも、この「スタンダード」が意識されている。木部の表わしを生かすディテールとして床吹出空調を採用するなど、既存の技術やデザインを選択・改良し、目新しいデザインでなく、標準的なデザインの洗練、既製品を活かしたデザインを心がけた。ハイブリッドが採用された上層階ではガラスカーテンウオール越しに木質フレームが見えるようになっていて、下層階では外装に地元の東京多摩産材の杉ルーバーを取り付けた。このように、2層構造のシンプルなファサード(厳密には1階を別とすると3層)デザインにすることで、後続のハイブリッドビルの設計デザインの指標とした。
現在の木造建築ブームを一過性のもので終わらせず、きちんと都市に根付かせていくためには、このスタンダード=『標準化』を推し進め、普及を促すことが必要だ。そのためには既存技術の標準化、普及のためのデザインにもっと労力を割いていく時期に差し掛かっているのではないか。
自動車業界で使われて久しい「ハイブリッド」という思想は何十年という時が既に流れている。今では、電気自動車が市販され、自動運転技術を搭載した自動車まで技術開発は進んでいるが、世の中では未だ「ハイブリッド」車が市場に価値を示している。建設業界においてもこのような「ハイブリッド」段階は必要であろう。技術の確立した既存技術をベースにしながら、新しい「環境配慮」の思想を取り込んでいく手法は、安全性と信頼性を担保しつつ、徐々に新しい価値観の社会へと進んでいく上でとても大切なプロセスである。一般ユーザーにとっても分かり易く馴染み易いものだと考える。
建築データ
設計:スタジオ・クハラ・ヤギ + team Timberize
構造:KAP
防耐火:桜設計集団
建築用途/事務所ビル
所在地 /東京都国分寺市
主体構造/ハイブリッド木造
建築面積/101.70㎡
延床面積/601.87㎡
竣工 /2017年7月
受賞:第21回木材活用コンクール 最優秀賞|農林水産大臣賞