所在地 : 茨城県水戸市泉町
建築設計 : 伊東豊雄建築設計事務所・横須賀満夫建築設計事務所 共同企業体
構造設計 : Arup
施工 : 竹中・株木・鈴木良・葵・関根特定建築工事共同企業体
撮影 : 中村 絵、伊東豊雄建築設計事務所
【寸評】
水戸市民会館は、水戸芸術館と京成百貨店挟まれた街区に建つ複合施設である。東日本大震災で被災した市民会館の建替事業だが、場所を移し、上記2館とともに中心市街地の活性化の拠点と位置付けられている。2000席の大ホールや中・小ホール、展示室を内包し、外周部に屋内広場やラウンジ、ホワイエ、スタジオや小会議室等が配置され、市民のさまざまな活動がファサードに立ち現れる。
構造・設備・音響面で高い性能を求められるホール空間は鉄筋コンクリートや鉄骨で造り、外周を大断面の耐火集成材(燃エンウッド)の木組みが覆うという構成がとられているが、木質空間として圧巻なのは「やぐら広場」である。平面約20×40m、天井高さ19.25mの大空間は広場だけでなく、ホワイエに向かうスロープやラウンジギャラリーなど個々人の居場所も共存する。太い木の柱の建ち並ぶ姿は、古代の大建築を思わせるプリミティブな力強さを感じさせるのだが、建物全体や部材レベルでのハイブリッドな構成、梁と柱をずらした木組みの設計と施工の複雑さを想像すると、この空間の実現にあたって注ぎ込まれた多くの人の知恵や労力に圧倒される。
2020年代に入り都市木造は、更なる技術開発と共に進む高層化の流れと、既往技術を整理・改良し汎用性を高めコストを抑えた中低層の木造化を広く進める流れと、大きく2つに分かれてきている。水戸文化会館は既往技術の延長上にあるが、県庁所在市の中心市街において、市民活動の拠点となる唯一無二の大らかな木造空間をこの規模で実現している点において、どちらの流れにも属さず、都市木造の世界を一段階広げた作品と言えるのではないだろうか。都市木造に取り組む設計者の背中を力強く後押ししてくれる極めて優れた作品として、T-1グランプリに選出する。
(内海彩 / NPO法人 team Timberize 理事)