『東北の3つの御堂と遊行寺地蔵堂』
保科 章(team Timberize)
古建築を観て歩くことが好きである。
50歳を過ぎてからは大学時代の友人達と年に一度は一泊で日本のあちこちを巡っている。
建築巡りの旅は古建築に限らず近現代の建築も観るのだが、どんなに優れた現代建築でも続けていくつも観ていると疲れてしまう。それに対して古建築はいくつ観ても疲れることがない。なぜだろうか。木造ということが大きいのだろうか。伝統的な姿が安心感を与えるのだろうか。
組物、垂木、屋根等々一見どれも同じように見える古建築も繰り返し観て行くうちに、微妙な差異あるいは時代や場所による大胆な変化に目を奪われることがある。
一方、現代において伝統的な寺社建築をつくる場合、これまでの歴史を踏まえた定型に従う例がほとんどであり、伝統を踏まえながらもそこから一歩踏み出す新たな型を模索することはできないのかと感じていた。
そんな折2012年に時宗総本山遊行寺様(神奈川県藤沢市)より本堂の脇に新築する地蔵堂の設計を依頼された。これまで本堂の外陣に仮置きされていた大きな地蔵像(高さ3m)を納める間口3間奥行き4間程度の大きさが条件であった。特に伝統的な形式を求められたわけではなかったが、伝統的な本堂のすぐ近くに建つことから、伝統をモダンに解釈した形態よりも外観はあくまでも伝統に倣った姿にすべきと判断した。
地蔵堂の姿を模索すべく、まずは高蔵寺阿弥陀堂を訪れる。宮城県白石蔵王から奥へ。雪深い角田市にある。シンプルな茅葺き屋根と簡素な組物の構成が美しく、内部の阿弥陀如来像と架構のバランスも素晴らしい。素朴な御堂は胸を打つ。
福島県いわき市の白水阿弥陀堂も美しい。浄土庭園の中、木橋を渡ってアプローチする。歩を進めるにしたがって現れてくる屋根のプロポーションに息をのむ。高蔵寺阿弥陀堂と同様に、華麗な荘厳にたよらずに建築の構成部材そのものの美しさにより極楽浄土の世界を現出させているように感じる。
さてここで地蔵堂の設計に戻る。あくまで主役は本堂。地蔵堂の外観は高さを押さえ、上記の二つの御堂のように簡素な構成でまとめることとした。一方内部空間は大きな地蔵像を内包する高さが必要になる。四隅に斜めに火打ち的に梁をかけ渡し、これを手掛かりに上部に小屋梁を組み上げ、また軒を支える桔木をトラス構造にすることで内部への侵入を少なくし、これにより中央にボイドをつくることができ、地蔵の上部が木の天蓋となった。
その後2016年に東北・平泉に友人達と古建築巡りに出かけた。かねてから訪れたかった中尊寺金色堂は小ぶりながらその輝く荘厳の様は圧倒的であった。
五月雨の 降残してや 光堂 (松尾芭蕉)
しかしながらそれを覆う御堂はRCでつくられておりやや興ざめであった。金色堂を後にしてしばらく行くと芭蕉の像の向こうに木造の御堂が見えてくる。RC造の覆堂がつくられる前の覆堂とのことである。こうした覆堂は金色堂保護のために鎌倉時代からつくられたという。内部に入り見上げて驚いた。四隅に架けられた梁に中央のボイド。その構成が地蔵堂にとても似ている。いや、地蔵堂が似ているのだが。設計した木の空間が鎌倉時代とつながったような気がしてすこし嬉しかった。