『糸魚川編 - 木造の旅 連載エッセイ - 』
八木 敦司(team Timberize)
糸魚川市へは、今取り組んでいる仕事で初めて訪れた。平成28年12月22日、市の駅北大火で約4ヘクタールが消失した。復興の象徴として、自力再建が困難な方に向けて市営住宅が建設されることとなり、スタジオ・クハラ・ヤギがプロポーザルで選定された。糸魚川市は、ヒスイとフォッサマグナが有名で自然豊かな日本海に面するまちである。産業としての林業は活発とは言えないが、全国の地域と同じように杉を中心とした製材業は存在する。今回の計画では、糸魚川産の杉を柱材、手摺のルーバー、外壁、厚板集成材のラミナに採用した。火に強い町なのに、木を使うの?と思われるかもしれないが、きちんと防火の規定を守った準耐火建築物である。駅北大火とともに「雁木」も多くが消失してしまったため、そうした雁木的なものを復活させる「軒空間」や「デッキ」もデザイン要素にしています。
糸魚川に赴くようになってから、糸魚川の五蔵のお酒を飲み、新鮮な魚、美味しいお蕎麦、ピザ、中華、ラーメンなどに出会った。糸魚川の人々は、役所の方も建設の方も開放的で気持ちのいい人が多い。自然と、酒と肴も進むわけである。もちろん、仕事もですが。最近できたカフェは地元の建築家がデザインした洒落た空間。カフェってなかなかないので、粋を感じます!
駅南すぐにある天津神社は、わらぶきの屋根の拝殿と佇まいが美しい。同敷地内に奴奈川神社もある。残念なのは、駅から来ると、直角に横切る国道の背後に参道に並ぶ樹木が見えるのに参道の入口には回り込まなければたどり着けないこと。駅や道は後世にできているものなので、全国でもこのような例は結構ある。昔あった地勢と現代的な交通計画がバッティングするのだ。日本橋と首都高速道路の問題も同じことが言える。「もくたび」から話が脱線しているが、何を話したいかというと、私の興味は、木造が依って建つ「環境」にあり、特に神社は好きで、その理由は、まず素晴らしい樹木や森、山道があること、そして山を背負っていることが多いので、そうした自然環境を感じられること。そして何よりこだわっているポイントが、神社に向かうときの道程。参道を通って、どう神社が立ち現れて来るか、どう見えて来るか、というのを体感するのが無性に好きなのだ。だから、参道に至るまでの道筋も私にとってはとても大事で、そこがうまくいっていないと、もう勿体無くて仕方がない!ああ、なんとかしたい!と思ってしまう次第だ。
自然環境と人の手によって作られたしつらえによって、場所と風景が生まれる。だがしかし、そこで生まれている一番大事なものは時間だ。体験という時間だ。
糸魚川の最後の締めは、皆に愛される安くて旨い「しらふじ」。店のお父さんとお母さんが満面の笑みで最後送り出してくれます!