東松山農産物直売所
2015年

所在地:埼玉県東松山市
建築設計:馬場兼伸(B2A)+江泉光哲(4FA)+金井直(KD)
構造設計:多田脩二構造設計事務所
施工:森田建設
写真:Takeshi YAMAGISHI

【寸評】

都市木造の構造システムを考える場合には、部材断面の標準化、汎用性の高い耐震要素の整備が重要となる。本建物では、現在、木造住宅用製材として流通している120mm角の製材とK型筋かいによる耐震要素の組み合わせで構造計画を立案している。その中で、この部材を基本とした単純化された柱梁の軸組構造に対して規模に応じて変化させた屋根構造によって空間に変化を与え魅力的な建物を実現している。
近年、格子壁など細かい材を水平・垂直に組み合わせた透過性のある耐力壁の提案も多くなされているが、たすき掛けの筋かいなど斜め材の方が構造的には効率的であるのは自明である。しかし、構造的に合理的なものがそのまま意匠的に好まれるとは限らず、斜材はあまり好まれていない。K型筋かいは、45度の傾きの筋かいを2段、3段とした多段の筋かいとともに学校の校舎建築等で古くから使われてきたが、これまでの地震被害で筋かい端部の不十分な接合による柱の折損など構造的問題を生じて避けられるようになっていた。本建物では、こうした既存の単純な構造形式を現代の構造工学に基づいた解析、接合部の金物の設計を用いて再評価することによって信頼できる構造システムとして適用していると見ることもできる。
今後、2階建て、3階建て建物にも適用できる断面の部材構成を意識した構造システムへの展開を期待したい。
(腰原幹雄 / NPO法人 team Timberize 理事長)

大きな敷地の木造平屋、大きな軒、方杖など、言葉だけを並べると「都市木造から連想されるもの」からかけ離れた要素の集合体である。完成直前に内観させていただいたが、設計者の解説をたよりに当時の印象を紐解くと下記のような感じだろうか。
無機質な土間と対比された開放感豊かな室内、フラットな屋根に一度見切られその上に複数の寄棟屋根が乗る独特の外観など、普遍的な「地方の木造」らしからぬ佇まいをもっている。「そのパターンにサインの役割を持たせるべくアレンジ」したという木造ブレースは、その量から建物の見え方を決定づけているが、繰り返しとパターンの効用か、建物全体を記号化するような作用をもたらし、今まで見てきたどの木造建築とも似ていない未体験な空間。
しかしオープン後、モノや人でにぎわう様子を見ると(都合2度見に行きました)、未体験≒違和感は驚くほど払しょくされた。あれほど主張の強かったブレースは慎ましくなり、独特の外観は人に囲まれると愛らしく思えてくる。どこにいても人の賑わいを感じることのできるこの開放性は耐力壁ではなし得なかったであろうし、設計者が「簡素」というディテールは構造的にはとてもきれいに収まっている、特別ではないがこのディテールの配慮は建物全体の見え方に見事に効いている。
都市木造ではないが、また、体験しないとなかなか伝わらないかもしれないが、木の新しい可能性を感じさせてくれる、まさにそのように感じた建築である。
(萩生田秀之 / NPO法人 team Timberize 理事)