もくたび vol.009
2024/6/7

「鳥取県東部の先端的な木造建築を巡る旅」
川中彰平(Team Timberize会員)

全国の都道府県で最も少ない県内人口約53万人の鳥取県。面積も全国で7番目に小さい鳥取県。「あるのは砂漠でしょ?」とまず言われる鳥取県(正確には砂丘です。)。「出雲大社があるほうだっけ?」と言われる鳥取県(それはお隣島根県。)このもくたびを読むような方はまず間違えないと思いますが、あえて言うと地図上で右が鳥取、左が島根です。
あまり訪れた人が多くなさそうな鳥取ですが、こと木造、木質建材に関しては実はユニークな県です。鳥取県東部には400年以上の人工林の歴史を誇る智頭・若桜地方という銘木、製材の産地があり、西部には日本有数の生産量を誇る合板工場、LVLメーカー、そしてCLTという名前が日本に浸透するずっと前からその先進性に注目して薄型CLTパネルを生産していた企業などエンジニアリングウッドの雄らが存在しています。
今回のもくたび、はそんな鳥取県の東部にある先進的な木造建築を紹介したいと思います。


<日の丸産業ビル>

日の丸産業ビル外観

鳥取市の中心部に建つ準木造4階建てこの建物は、設計は地元の白兎設計で2020年に竣工しました。SMB建材のサミットHR工法によるラーメンフレームにCLT(Cross Laminated Timber)の屋根・床板を組み合わせています。耐火構造なので、構造フレーム、CLTなどは被覆されていますが、内装制限を緩和させることで可能な限り内装材として鳥取県産材が使用されています。

被覆された木質ラーメンの柱・梁
木質感ある内部

木質ラーメンの都市木造で、鳥取県初の意欲的な試みであるので、もう少し外から見たときに木で作られたビルということがひと目で分かる形だと更に魅力的になるのだろうなと感じました。私は参加出来なかったのですが、構造見学会の時の構造体が被覆される前の写真が非常に魅力的に映ったのでよりそう感じるかもしれません。


<タカハマカフェ>

タカハマカフェ外観

次に訪れたのは、鳥取砂漠、ではなく鳥取砂丘沿いにある「タカハマカフェ」です。このカフェは隈研吾さんの設計で大成建設施工、2022年に竣工しています。構造はCLTとRCのハイブリットとのことですが、先程の日の丸産業ビルと対象的に清々しいくらい木を外部、内部に表していました。

屋上の細い木のルーバーが次訪れた時どんな形でエイジングしているのかな、というのが非常に気になりました。

屋上のルーバー

<鳥取ユニバーサルスポーツセンター ノバリア>

「ノバリア」は、鳥取市にある多目的スポーツ施設で、設計はプライム建築都市研究所で構造はKAP、施工は地元の掛樋工務店で2020年竣工です。外観はそれほど特長を感じませんが、中に足を踏み入れるとCLT板が空に浮遊しているような独特の空間が広がっています。訪れたのは夕方でしたが、ハイサイドライトから入り込む光も美しかったです。

ノバリア外観
ノバリア内観

<ちえの森ちづ図書館>

ちえの森ちづ図書館 外観

「ちえの森ちづ図書館」は、智頭町に位置し、設計は徳岡建築設計事務所で2020年に完成しました。内部は連続する木のシザートラスが見える、コンパクトで使い勝手の良さそうな図書館です。

図書館内観

この図書館、コンペで設計者が決まったんですが、私、川中も前職でコンペに参加していました。残念ながら落選しましたが、歴史ある大径木の智頭杉を有効活用する案を出せたと思っていて、良い案だったのにな、としんみりと思い出に浸りながら見学しました。


<House Base>

House Base内観1

ちょっと先端的な木造からは外れるかもしれませんが、最後にご紹介するのは同じく智頭町にある「House Base」です。設計はPLUS CASA、竣工は2016年です。倉庫をリノベーションして設計者のオフィス兼住宅にしたものです。縁あって内部を見学させてもらったのですが、設計者の美意識を感じさせる、ほぼ生活感の無い内部空間に圧倒されました。

House Base 内観2

ただ住みにくそうではまったくなく、薪ストーブ+床暖房で冬も暖かそうだし、周辺からの視線を気にすることがないので窓にカーテンがなくても良かったりと、美と機能がほどよく共存していました。4つの個室と共用空間を分ける存在感のあるLVL壁は、在来で軸を組んだあと当時出たばかりのキーテックの意匠LVLを貼ったもの。内部の他の仕上げが無機質なものが多いので、LVLの表情が引き立っていました。設計者の小林さんは薪ストーブの薪を切ったり良質なタンパク質(卵)のために雌鶏を飼育していたりと半自給自足のような生活をしていて、その都市部では難しい生活スタイルにも惹かれました。帰り際に頂いた産みたての卵を使った卵かけご飯は絶品でした。

日新鮮な卵を生んでくれる雌鳥たち

<おまけ>

鳥取といえば日本海、日本海といえば海の幸です。とてもリーズナブルで美味しいです。冬に鳥取を訪れると赤くて美味しいあの子達が都会では有りえない値段で取引されています。

カニは1枚、2枚と数えます 1人一枚食べれます
これこそ1人一匹鯛可能

魚もめちゃくちゃ安いです。タイなんか1匹600円ですよ。
道の駅の海鮮丼もインバウンドの波を全く受けていない鳥取価格。これで1500円(税込)です。

ご飯が全く見えないノンインバウン丼

豊洲のインバウン丼に疲れたあなた。鳥取の先進的な木造と、まだ外貨の煽りを受けていない海の幸が貴方を待っています。